2025/7/29

250729_ウォール街は今-関税戦略の収束と次の焦点

前回のブログでは、“「軍事リスク=即・暴落」ではないということ。そして、表面的なニュースの衝撃だけで判断せず、背景にある構造や市場の動きを読み解く姿勢が極めて重要だということです。今後、イラン側の出方やイスラエルとの関係、さらには米大統領選といった要因がどのように作用するかによって、再び市場が大きく揺れる可能性はあります。しかし、そのたびに右往左往するのではなく、長期的な視野と分散された資産構成を持つことが、個人投資家にとっての最善の備えとなるでしょう。”と書きました。あなたが今後、どのように情報を捉え、どのように判断するか?その積み重ねが、確かな資産形成と、将来への安心感へとつながっていくはずです。

 

例によって前回の相場との比較です。

NYD前回6/23 $42,581.78でした。昨日は7/28 $44,837.56

為替相場前回6/23 145.06円/$ 昨日は7/28 148.57円/$

 

  28日の米国株式市場は前週末日64ドル36セント安の$44,837.56で終えました。米国とEUは米国がEUに課す貸す相互関税や自動車関税の税率を15%とすることで合意しました。EUは米国からの7500億ドル相当のエネルギー購入や6000億ドル超の対米投資も約束しました。この動きも先週から合意が近いと伝わっていおり、織り込み済みで主力株の利益確定売りが出て一服したと考えられます。

 

FRBは次の標的か?

—米関税戦略の収束と“利下げ圧力”の連鎖がウォール街を動かす—

 

1.関税戦略の幕引きと、次に動く“力学”

あなたは、米国の関税政策がひと区切りを迎えた今、次に何が動き出すのかを意識したことがありますか?

2025年7月28日、米国とEUの間で相互関税の税率を15%とする合意がなされました。これは、すでに決着した日本との協定に続くものであり、長く続いてきた米国の通商交渉が一つのフェーズを終えたことを意味しています。ここで終わりかと思いきや、市場はすでに「次のターゲット」に目を向けています。そのターゲットとは――FRB(米連邦準備制度理事会)です。これまで独立性を保ちつつ、インフレ抑制に専念してきたFRBに対して、今、政権側は着実に影響力を強めようとしています。その背景には、高金利が製造業や不動産市場の足かせとなり、米国内の再産業化や雇用創出にブレーキをかけているという強い問題意識があります。つまり、関税という「外部からの圧力」が一段落した今、米国は内側――すなわち金融政策そのものの主導権を取り戻そうとしているのです。

そしてこの流れは、単なる金融当局の動きにとどまらず、ウォール街や世界の市場全体に大きな波紋を投げかけています。もしあなたが経済の変化に備えたいと考えるなら、この“力の移動”がどこへ向かい、どのような影響を与えるのかを知ることは、きっと無駄ではありません。

本記事では、米国の通商戦略が一段落した今、なぜFRBが次なる焦点とされているのか、そしてウォール街はすでに何を織り込み始めているのかを、あなたの視点から読み解いていきます。

 

2.問題提起:高金利が突きつける“回復の壁”とは

いま米国経済が直面している最大の課題は、インフレを抑えつつ、景気回復を持続させるという難題です。これをコントロールする中心的な存在がFRB(米連邦準備制度理事会)ですが、そこに政権側の新たな圧力が加わろうとしています。本来、FRBは物価の安定と雇用の最大化という“デュアルマンデート”に基づいて独立して行動する機関です。しかし現在のように高金利政策が長期化する局面では、雇用や産業に悪影響が出始めているという懸念が高まっています。実際、金利が高止まりすることで、企業の設備投資は減速し、住宅ローン金利も跳ね上がり、消費者心理も冷え込みやすくなります。これらの要因は、米国内で進められている製造業の再興やインフラ投資の流れにブレーキをかけてしまうのです。

また、対外的な競争力の観点でも課題が浮上しています。高金利によるドル高が続けば、米国の輸出産業は不利な立場に置かれ、結果として貿易赤字が再拡大する恐れもあります。

こうした状況に対し、政権側からは「FRBの利上げ姿勢が国家全体の経済政策と乖離している」という批判が水面下で強まりつつあります。通商戦略の次に、金融政策の主導権をも取り戻そうとする動きが始まっているのです。つまり、いま私たちが直面しているのは単なる“景気の波”ではありません。金融政策の独立性そのものが、政治的力学によって揺らぎ始めているという構造的な問題なのです。この構図を理解することは、あなたの事業や投資判断にも直結する重要な視点となります。

 

3.要因分析:FRBを取り巻く「3つの圧力ルート」

現在、FRBに対して政権側が影響力を強めようとする動きは、単なる主張や批判ではなく、制度・政策・価値観の3つのルートを通じて具体化しつつあります。それぞれのアプローチには、過去の政権でも見られた“既視感”のある戦略が垣間見えます。

1)議会と人事による間接的な圧力

2024年以降、政権与党が議会の主導権を握る可能性がある中で、FRB理事や副議長の人事に「低金利志向の人物」を送り込む動きが本格化すると予想されています。FRBの政策方針は、議長1人の判断で決まるものではなく、FOMC(連邦公開市場委員会)における多数決によって決定されます。そのため、構成メンバーを通じて政策の方向性を“緩やかに”変えることは十分可能です。

2)財政と金融の“協調”を名目にした圧力

政権側は、「財政出動と金融緩和の同時展開こそが国内再建に不可欠」という論理を打ち出しつつあります。特に、製造業の再興やエネルギー安全保障、低所得層への補助といった政策パッケージと整合性を取るためには、金利が高すぎる現状は望ましくないという姿勢が色濃くにじみ出ています。これはかつてトランプ政権がパウエル議長に直接圧力をかけた構図と非常に似ています。

3)“デュアルマンデート”の再定義という価値観の圧力

FRBの使命である「物価安定と雇用最大化」のバランスを、あらためて“雇用寄り”に傾けようとする政治的働きかけも強まっています。特に現在のインフレが沈静化しつつあることを根拠に、金利を引き下げて実体経済の下支えをすべきという声が上がっているのです。これは、いわば「デュアルマンデートの重点配分の書き換え」に近いものであり、金融政策の中立性を脅かしかねない兆候ともいえるでしょう。

 

加えて、これら3つの圧力を正当化するための経済的裏付けとして、フィリップス曲線の理論が再び注目されています。米国においては「インフレ率2%・失業率4%」が理想的な均衡点とされており、現状はそのバランスから逸脱しているという主張に説得力を持たせる材料となっているのです。

 

4.市場はすでに“政策転換”を織り込み始めている

FRBへの圧力が徐々に高まる中で、ウォール街の関係者たちはこの構造変化を静かに、しかし確実に読み取り始めています。政治の力学が金融政策の独立性に影を落とすとき、最も早く反応するのが市場です。

まず注目されているのが、金利見通しの変化を先取りする債券市場の動きです。すでに10年物米国債の利回りはピークを打った可能性が意識され始め、長期債への資金シフトが進行しています。これは、「FRBが遠くない将来に利下げへ転じる」という観測を反映した動きです。特に住宅ローン市場や企業の設備投資と関わる長期金利の低下は、経済全体のセンチメントを大きく左右します。

同時に、株式市場でも変化が見られます。金利が低下すれば、将来収益への期待が高いハイテク株や成長株が有利になります。特に注目されているのは、生成AI関連銘柄や半導体セクターです。FRBがハト派的姿勢に転じれば、これらのセクターに再び資金が流れ込む可能性が高まるというのが、複数の投資家の共通認識となっています。

為替市場においても、ドル安トレンドの兆しが見え始めています。政策金利が高い間はドル高が支配的でしたが、緩和方向への転換が見えればドルの相対的魅力は薄れ、資金は資源国や新興国市場に向かいやすくなります。これにより、コモディティ価格の上昇や資源株への投資が加速する可能性もあります。

しかし注意すべきは、これらの市場の動きがすべて“期待先行”であるという点です。実際の政策変更がなければ、相場は反動的に逆戻りするリスクも孕んでいます。加えて、利下げによる景気刺激はインフレ再燃を引き起こす可能性もあり、市場はこの“二重の読み”に対して非常に敏感に反応しているのです。

ウォール街のプロたちは、こうした政策の機微を「数字」や「声明文の語調」から敏感に感じ取り、一歩先のリスクとチャンスを読み解こうとしています。あなたが事業主や投資家として経済の波を読むときにも、この“市場の眼差し”に学ぶべきことは少なくありません。

 

5.あなたに必要な視点は「兆し」を読む力です

米国の通商政策がひと段落し、金融政策が次の焦点となる中で、私たちにできる最も重要なことは、「変化の兆し」を見逃さないことです。経済は一夜にして劇的に動くわけではありません。しかし、大きな転換はいつも“静かな予兆”から始まります

たとえば、FRBの議長発言におけるトーンの変化、FRB理事会メンバーの構成の変化、あるいは長期金利の微妙な下落など、一見地味なニュースの中にこそ、未来を先取りするヒントが隠れているのです。

あなたが事業主であれば、これらの兆候が「資金調達コスト」や「消費者の購買心理」にどのように影響するのかを読み取ることが、次の一手を誤らないための鍵となります。高金利が続くと設備投資や店舗拡大の決断は慎重にならざるを得ませんが、もし利下げ局面に入る兆しが見えれば、攻めのタイミングに転じることもできるのです。

また、投資家としてのあなたにとっては、今どこに資金が流れ、どこから抜けようとしているのかを俯瞰して見る力が必要です。市場が期待で動くとき、早すぎても遅すぎても成果はつかめません。政策転換の「サイン」を読み取り、自分の投資判断に反映させる習慣を持つことが、長期的な成長につながります。

さらに、地政学的な視点も欠かせません。関税交渉が整ったということは、次なる国際的駆け引きが「通貨と金利」という“見えにくい戦場”に移ることを意味しています。これは実体経済よりも反応が早く、あなたの資産や事業に波及するのも一層早くなることを意味しています。

つまり、今必要なのは「専門家になること」ではありません。ニュースの行間を読み、政策の裏側にある意図を感じ取る“感覚”を鍛えることです。変化の波に飲まれるのではなく、自らの意思で舵を取る力。それが、この先の経済を生き抜くための最大の対応策です。

 

6.ポスト関税戦略=ポスト利上げ時代の到来

ここまで見てきたように、米国が日本・EUとの通商合意を成立させたことで、関税を通じた圧力戦略”は一つの区切りを迎えました。そして今、経済政策の次なる焦点は、静かに、しかし確実に「金融政策」へと移行しつつあります。FRBに対する政権側の影響力強化は、単なる政治介入ではありません。「物価安定」と「雇用最大化」というデュアルマンデートの比重を、どう再定義するのかという本質的な問いでもあります。

この問いは、あなた自身にも向けられています。
今後のFRBの動きによって、金利・為替・資金の流れは大きく変化し、あなたの事業や資産運用にも確実に影響を及ぼします。だからこそ、単なる“ニュースの読み手”ではなく、変化の読解者”になることが重要なのです。市場はすでにこの動きを先取りしています。10年債利回りの変化、ドルの動き、ハイテク株への資金流入──これらはすべて、ウォール街が「ポスト利上げ時代」を視野に入れ始めているサインです。

これからの時代に求められるのは、「今、何が起きているか」を知る力ではなく、「次に、どこが動くのか」を感じ取る感性です。そしてその感性は、あなたの学び、経験、そして日々の“気づき”によって鍛えられていきます。

今こそ、政治と経済の力学を正しく読み解き、流される側”から“選択する側”へと立場を変えるチャンスです。

 

7.関連記事:さらに深く読みたいあなたへ

今回の記事では、米国の関税戦略とFRBへの圧力、そしてウォール街の反応についてお伝えしました。もしあなたがさらに深く理解を進めたいと感じたなら、以下の記事もぜひお読みください。いずれも、今回のテーマと密接に関わる内容です。

 

1)[FRBの金融政策と私たちの生活]⭐️

FRBの利上げや利下げが、私たちの日常生活や中小企業経営にどのような影響を与えるのかを、実例を交えてわかりやすく解説しています。金利の変化が自分の家計や商売にどのように波及するのかを知りたい方におすすめです。

 

2)[テクノロジーが富の集中に与える影響]⭐️

生成AIやデジタル金融といった新技術が、どのようにして“富の偏在”を加速させているのか。テクノロジーの進化と経済格差の相関を丁寧に読み解きます。

 

3)[中国の経済成長と世界経済への影響]⭐️

中国の富裕層急増と金融政策の変化が、米国・日本・新興国市場にどのような連鎖をもたらしているのかを分析。地政学と経済の交差点に関心があるあなたに最適な内容です。

 

これらの記事を通して、「金融政策」と「地政学」のつながりを多面的に理解することが、あなたの判断力と行動力を高めることにつながります。引き続き、知的な視点を持って経済の動きを読み解いていきましょう。どんな時代であっても、「知っていること」は、あなたの強みになります。

 

以上です。